タスクを止めて、戦略を。新施策「マイスト」をめぐる社長インタビュー

マイストのKV

株式会社CyberOwl(以下、サイバーアウル)では、今年1月から「マイスト」という取り組みを始めました。これはメンバー一人ひとり3カ月間の目標を考え、それを達成するための戦略を発表するというもの。日常業務をこなすことから一度離れ、戦略づくりにじっくり頭を使います。

今回は「マイスト」を企画した代表取締役社長・田中啓太に、この取り組みの目的や実施して分かったこと、今後の期待を聞きました。

※インタビューの内容は2022年7月6日時点の情報です。

タスクをこなすのではなく、戦略を練るために

田中 啓太の画像

【プロフィール】
田中啓太:株式会社CyberOwl代表取締役社長。2012年4月に株式会社サイバーエージェントへ新卒入社し、同年10月、インターネット広告事業本部のマネージャーとなる。翌月、株式会社CyberSSの代表取締役に就任。2018年5月に社名を「株式会社CyberOwl」へ変更。2019年10月からは、サイバーエージェントのインターネット広告事業本部統括も兼任。


――
「マイスト」の概要を教えてください。


「マイスト」は「マイストラテジー」の略で、“自分自身の戦略”という意味です。

もともと、自分の生い立ちや将来的にどんな仕事をしていたいかを発表する「マイ
IR」という企画がありました。これの戦略バージョンが「マイスト」で、クォーター(3カ月間)の個人目標の達成計画とか、達成させる上での施策を発表してもらうというものです。

「マイスト」は一日
中、朝から晩まで実施します。1人3分間で他のメンバーと僕に向けて発表して、フィードバックを伝え合うのがお昼まで。午後は、経営メンバー含めてチームでブラッシュアップして持ってきてもらいます。

2回目でOKになる場合もあれば、もう少し考えてもらう場合もあって、19時まではとにかく考え尽くす日となっています。


――
なぜ一日
かけて実施するのでしょうか?

現場のメンバーに、本当の意味で脳に汗をかいてもらいたいからです。普段は一日中タスクをさばいたり必要な連絡をしたりしたら、すごく仕事をやった気になりますよね。でもそれに慣れると、タスクが少ない日は「仕事をしていない」と感じる。そうすると、つい自分じゃなくてもできるような仕事までもさばいてしまうです。

だからじっくり時間をとって、情報収集をしたり、目標数字をどうやって達成するかを考えたり、今まで考えてこなかったような施策を考えたりして、本当の意味で脳に汗をかくぐらい頭を使ってほしい。

そういう理由から、「マイスト」の日は全員すべてのタスクを断ち切って、朝から発表を聞きあって、僕らボードメンバーはフィードバックをします。このプレゼンとフィードバックを通して、次のクオーター目標を達成する戦略を考える
です。タスクをこなすだけじゃなくて、戦略を練ることに若いうちから時間を使ってほしいと考えています。

「整理能力」「プレゼン能力」を高める


――
個人戦略を考えるだけでなく、発表するということも
1つのポイントでしょうか。

サイバーアウルは、ビジネス職(総合職)のメンバーの半分以上が内勤です。営業メンバーは5分の1程度なので、多くのメンバーはお客さんに提案する機会がないですよね。社内で僕や上司に提案することの方が多いので、どこかで慣れが出てくるし、話す内容や資料を完璧に詰められていなくても、ある程度理解してもらえる。でもこの状態は、ビジネススキルの面で少し心配だなと思っていました。

僕も取締役の真島(典哉)も広告代理店で育ってきたので、期限内にわかりやすいアウトプットを作って、限られた時間でお客さまに提案をして話を決めるスキルを身に着けてきました。いわゆる「資料作成能力」と「プレゼン能力」ですね。その経験から考えると、この2つの能力って結局“整理力”があるということ、自分がやりたいことや伝えたいことを整理できるということだと思っています。

上司に提案を持っていくときでも自分の中で整理して、限られた時間内で、重要なことをロジカルに伝えられるかどうか。営業職や経営メンバーだけでなく、内勤のメンバーにもこのビジネススキルを高めてほしいと考えました。

これが「マイスト」を企画した二つ目
の理由です。

いい意味で「心配性」になっているか?

田中啓太の画像


――
OKを出す「マイスト」はどんなものですか?

どれだけ考えられているかがポイントですね。

その人の戦略そのものが正しいか間違っているかは、やってみないと分かりません。だからチームの目標数字や向き合っている課題に対して自分がすべきことを明確にできているか、そして達成するためにいい意味で「心配症」になっているかどうかを見ています。


うまくいきそうな案を
1つだけ考えて一発勝負をするのは危険です。「これをやってもうまくいかないじゃないか?」「これもうまくいかないんじゃないか?」と、いい意味でネガティブに考えるタイミングにしたい。カバーリングを練りに練られているか、クリティカルに解決案が出せているかどうかがOKを出す基準ですね。

僕は「その施策で大丈夫?」「こうなったら大丈夫?」と聞いていく役目で、カバーリングを深掘りさせてもらいます。


――「
マイスト」は
1度決めたら3カ月間、変更しないのでしょうか。

クォーターの前半が経過した時点で、修正の機会を設けています。「マイストピットイン」と呼んでいるのですが、このときは1カ月半前に決めたマイストに対して、うまくいっていない点を軌道修正し、すぐに再度走り出すのがポイントです。

最初の「マイスト」は成功確率が
1%でも上がるように考え尽くしますが、「マイストピットイン」はF1のピットインと同じです。タイヤを替えてすぐに送り出す、確認タイムのようなもの。これはオウンドメディア事業部のメンバーから出た案なですよ。

「考え抜く力」が将来の仕事を広げる


――
1回を実施してみて、いかがでしたか。

内勤メンバーのプレゼン能力や資料作成脳能力は、予想よりも高かったです。1人で悶々と考えるわけではなくて、経営メンバーが当日までに一緒に考えを詰めていくので、それも助けになったと思います。さらに磨きがかけられそうな部分はメンバーそれぞれにあったので、今後も期待しています。


――“脳に汗をかくため
の機会として、手応えは大きかったでしょうか。


メンバーから「自分でタスクを作れるようになった」という声が出たのは、期待していたとおりです。戦略を研ぎ澄ますために考えるって、一番しんどいですよね。タスクをこなすのは、肉体的にはしんどくても精神的な負担が少ない。単純労働で一日を終えられるので、だんだん緊張感もなくなって、楽をしやすくなります。

たいていの会社では、若いうちにタスクをこなすよう求められると思います。もちろんタスクを遂行する能力も大事だけど、それだけだと、タスクをこなすしんどさに埋もれてしまう。


でも、うまくいっていないことに向き合ってじっくり戦略を考えるとか、タスクを見出すことって、
3年後、5年後、10年後にできる仕事の幅を広げると思うです。若い時に「事業を興したい」「経営者になりたい」っていう人は多いですけど、その中で本当に考え抜くことをやり切れる人がなかなかいないからこそ、事業を立ち上げて成功させられる人が少ないだと思います

サイバーアウル
の全員に経営者になってほしいと思っているわけではないですが、どういう仕事にもやっぱり「考える能力」は必要だと思います。だから20代や中堅世代のうちに考える癖をつけてほしい。僕も20代前半から考える時間が多かったので。

“止める大胆さ”が必要。自分の戦略の手綱を握ることが、マネージャーへの入口

田中啓太の画像


――
考え抜くことを癖づけると、タスクに対する状況分析力も相乗効果で上がりそうです。


まさにそうで、定例会議とかルーティン業務に対して「止める」「決める」「また進める」という切り替えができるようになると思います。「来週のこの日のミーティングをすべてキャンセルしてでも、これを考えよう」という「判断力」ですね。この大胆さを自分で持てるようになれば、戦略や一つひとつのタスクの精度がすごく上がると思います。

僕の場合は、全部のミーティングをキャンセルして思いきって合宿を入れるとか。自分がそのタスクをやることに疑問を抱いたら、棚卸しを
したり、各所を調整していったん止めるです。タスクをこなす
1時間よりも、考える3時間のほうがあっという間に過ぎて、得られるものが大きいこともあります。


――
タスクを進めるだけでなく、止めることも大切なですね。


マネージャーを目指しているメンバーによく言うのですが、自分のマネジメントができない人は他人のマネジメントもできないですよ。自分自身のタスクコントロールをしたり考えるタイミングをとったりできないままにマネージャーにはなれないですね。止まるべきときに止まれないので。

だから「マイスト」はマネージャーになる最初の一歩だと思います。自分の戦略の手綱を握って、進めたり修正したりしていく。マネージャーになるとこの手綱が
5本になったり、事業責任者になると複数のチームをコントロールしたりするわけです。握る手綱と引っ張り方が変わるだけで、入口は「マイスト」にあると思います。


――
今後に期待されていることは何でしょうか?


「マイスト」は3カ月に1回だけなので、一日考え尽くすといってもたかだか8時間くらいです。1カ月に20営業日なので、3カ月で働く500~600時間のうち、たった8時間しかありません。「考え抜く時間」はまだ全体の1~2%にしか満たない。あとの98%はタスクをこなしているわけです。

だから今回の「マイスト」から、メンバーそれぞれが自分で考える比率をどんどん増やしていけるといいなと考えています。最初に決めた「マイスト」は、修正の「マイストピットイン」に向けて毎週ブラッシュアップしますし、「マイスト」以外の取り組みも通して難しい課題に向き合っていけば、考える時間は10%、20%と増えていくはずです。この取り組みをきっかけに、長期的に「考える癖」をつけてほしいと思っています。

※インタビューの内容は2022年7月6日時点の情報です。

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